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「日本発の医療技術を世界で勝てる産業へ」──あずさ監査法人が「ゼロ」から起業家を支援し続ける理由

12 時間前
読了時間: 9分

有限責任あずさ監査法人(常務執行役員 インキュベーション部長 パートナー)

KPMGジャパン(プライベートエンタープライズセクター スタートアップ統轄リーダー)

阿部 博様

慶應義塾大学医学部 医科学研究連携推進センター 特任助教 松長卓志

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 BIプログラム 修士課程1年 四宮彩名

インタビュー日:2026年6月26日


あずさ監査法人は、世界的なプロフェッショナルファームとして知られる一方、2019年に「インキュベーション部」を立ち上げ、大学発スタートアップの支援に注力しています。まだ資金も実績もない「ゼロ」の段階から、情熱を持つ起業家たちを手弁当に近い形で支援し続ける背景には、どのような想いがあるのでしょうか。今回は、健康医療ベンチャー大賞への協賛を通じて、医療・ヘルスケア分野におけるイノベーション創出にどのような期待を寄せているのか、その熱い想いを伺いました。



企業・事業紹介


 ──まずは、貴社におけるインキュベーション部の立ち上げの経緯や、現在の活動について教えてください。


当社はグローバルに展開する監査法人であり、主に監査やアドバイザリー業務を提供しています。その中でインキュベーション部を立ち上げたのは、2019年頃のことでした。当時、大学発のスタートアップが少しずつ注目を集め始め、優秀な学生が既存の大企業に就職するのではなく、スタートアップへの入社や起業を選択する流れが生まれつつありました。この変化を捉え、「これからの時代を変えていくのは彼らだ」という強い思いから、大学発スタートアップを発掘・育成・支援する専門部署を設立しました。


起業を志す若者たちは、高いパッションと能力を持っていますが、創業期には資金も実績もありません。私たちはそうした「何もない」段階のスタートアップに対し、手弁当に近い形で伴走支援を行ってきました。監査法人が、利益が出ていない創業期のスタートアップを支援するのは珍しいことかもしれません。お金があって事業が一定回りはじめている企業を支援する法人は多数ありますが、何もない段階から情熱だけで走っている起業家を応援しているのは、私たちくらいではないかと自負しています。


実は、こうしたゼロからの支援は、特に株式公開業務をする上では私たちが長年実行してきました。まだ何もないスタートアップの創業期から私たちが支援を続け、共に成長してきたという歴史があります。かつての日本は、何もない戦後の焼け野原から、世界的な企業を次々と生み出してきました。本来、日本には強いアントレプレナーシップが根付いていたはずです。


しかし、現在の日本にはどこか閉塞感が漂っています。だからこそ、社会インフラを支える私たちのような企業が、利益度外視でも若い世代の思想や哲学を育て、社会を創る支援をしなければならないと考えています。以前、ある事業会社の方とお話しする機会があった際にも、「何もないところから社会を創る支援をしなければ、日本は良くならない」と意気投合したことがあります。単なる金儲けではなく、「何のために起業するのか」「商売の道徳とは何か」を共に考え、成長を後押しすることが、社会を創る私たちの使命だと確信しています。



医療・ヘルスケアへの取り組み


──大学発スタートアップの中でも、特に医療・ヘルスケア領域に対しては、どのような課題感や可能性を感じていらっしゃいますか?


日本の医療・ヘルスケア領域における技術力は、iPS細胞などに代表されるように、世界的に見ても非常に高い水準にあります。私たちがインキュベーションの取り組みを始めた頃にも、大学発のバイオベンチャーが上場し、大きな成功を収める事例がありました。このような素晴らしいバイオテック企業が日本から生まれる土壌は確実に存在しています。


しかし、現状の大きな課題は、そうした優れた技術を持つスタートアップが、日本の市場で大きく成長する前に、海外の企業に安く買収されてしまうケースが少なくないことです。医療系ベンチャーは、技術開発の難易度が高いことに加え、実用化して資金を回収するまでに長い歳月と膨大な資金を要します。そのため、日本国内で十分な資金調達ができず、結果として日本の優れた技術が海外へ流出してしまうという構造的な問題があります。


もちろん、最終的に世界中の患者さんを救う技術になれば意義はありますが、一人の日本国民としては、やはり日本発の技術が国内で大きく育ってほしいという悔しさも感じています。だからこそ、私たちが彼らを支援し、知財戦略やパイプラインの構築、海外展開のノウハウなどを提供していくことが不可欠だと考えています。


一方で、医療・ヘルスケアの領域は、従来の人間の医療にとどまらない新しい広がりも見せています。例えば「ペット医療」でも新しいスタートアップがありました。現在、ペットは単なる動物ではなく、家族の一員として大切にされています。ヨーロッパなどでは大型犬が電車に一緒に乗るなど、社会への溶け込み方も進んでおり、今後、人間と同等の高度な医療がペットにも求められる時代が来るでしょう。かつてのように外で犬を飼う文化から、室内で家族として共に暮らす時代へと変化しています。こうした既存の枠組みに捉われない、新しい視点を持つスタートアップも生まれてきていますし大きな可能性を感じています。健康医療ベンチャー大賞にも幅広く、多様なスタートアップがエントリーしてくると良いかなと感じておりす。




健康医療ベンチャー大賞への想い


 ──そうした課題感をお持ちの中で、なぜ「健康医療ベンチャー大賞」に協賛し、支援を続けてこられたのでしょうか。


インキュベーション部を立ち上げた当初から、私たちは医学部の強い大学発スタートアップの支援に注力してきました。その活動の中で出会ったのが、この健康医療ベンチャー大賞です。最初は小規模な取り組みに見えましたが、関わっていくうちに、伊藤公平塾長や運営されている先生方の「絶対にこれを推進していくんだ」という強い意志と熱量を肌で感じました。その姿を見て、私たちも「これは応援しなければならない」と強く共感したのが協賛の始まりです。


もちろん、監査法人という組織の中で、すぐに収益に直結しない協賛に対して社内の理解を得るのは簡単なことではありません。「全社的な視点で見てどうなのか」といった厳しい声もあります。スタートアップを支援する上では明確なビジョンをしっかり持ち、新しい挑戦を支えるための社内外の理解を得ることも大切なことです。


それでも私たちが支援を続ける理由は、スタートアップの育成には、「目先の量的な基準」や「お金」だけではなく、「質的な基準」や「人との結びつき」が不可欠だからです。周りの方々に「法人の利益だけを追求するのではなく、社会にとって必要なことをやるべきだ」という、いわゆる「三方よし」の精神を深く理解してくれている方も応援していただいたことで今日まで支援を続けることができています。大変ありがたいことです。いつも感謝しております。


私たちは単なる資金の提供者で終わるつもりはありません。これからの支援で重要なのは、起業家が「どのような課題を解決すべきか」を本質的に見極め、適切なキーマンと引き合わせたり、特許戦略など多角的な視点から実務的なメンタリングを行ったりすることです。私たちの持つ知見やネットワークを提供することで、彼らが本当に社会へ価値を還元できる仕組みを共に作っていきたいと考えています。



健康医療ベンチャー大賞に参加して感じたこと 


──実際に大会に関わられてみて、どのような印象をお持ちでしょうか。また、今後の大会に期待することはありますか。


非常に素晴らしい先生方が審査を務められており、社会的な意義の大きいコミュニティに成長していると感じています。また、高校生から研究者まで、幅広い層が情熱を持って参加している姿には毎回感銘を受けます。ただ、現状に満足するのではなく、健康医療ベンチャー大賞には「さらにその先」を目指してほしいという期待も持っています。


私たちが目指すべきは、この大会から「グローバルで勝てる圧倒的なトップランナー」を生み出すことです。例えば、海外の著名なテックカンファレンスでは、まだ無名だった頃のテスラのイーロン・マスク氏や、Uberの創業者、そしてOpenAIのサム・アルトマン氏などが登壇し、そこから世界的な企業へと飛躍していきました。規制当局とぶつかりながらも新しい産業を創り上げた彼らのように、この健康医療ベンチャー大賞からも、社会に大きなインパクトを与える日本発スタートアップを輩出する場であってほしいのです。


そのためには、コンテストの目的をより明確にし、とんがった技術や独自のアイデアを持つ起業家が本気でしのぎを削るような、さらにレベルの高い熱量を生み出す必要があります。また、大学や医療関係者だけでなく、多様なテクノロジー企業などを巻き込むことも重要です。他領域の知見を掛け合わせることで、誰もやっていない新しいエコシステムを創り上げていく。それができれば、世界中から「この大会に参加したい」と注目されるような、強力なプラットフォームへと進化できると信じています。



挑戦者へのメッセージ


 ──最後に、これから起業を目指す学生や研究者、そして健康医療ベンチャー大賞へ挑戦する方々に向けたメッセージをお願いします。


ぜひ、「この薬で病気を治したい」「自分の研究で社会の課題を解決したい」という、強い想いと独自のストーリーを持った起業家に出てきてほしいと願っています。起業の過程では、困難な壁に何度もぶつかるでしょう。技術力や資金力ももちろん重要ですが、最後に人を動かし、困難を乗り越える原動力となるのは、「何としてもこれを実現したい」「身近な人を救いたい」という圧倒的なパッションと当事者意識です。


そうした本気の想いを持った挑戦者たちが、ピッチの舞台でしのぎを削り、世界へ羽ばたいていく。そして私たち協賛企業や運営者が、それぞれの強みを活かして彼らを全力で支え、社会実装へと導いていく。健康医療ベンチャー大賞を、そのような熱気あふれる共創の場にしていきたいと考えています。


日本には、世界を変える力を持った技術と若き才能が確実に眠っています。私たちは、皆さんが描く未来の実現に向けて、どんなに何もない段階からでも、同じ船に乗る覚悟で伴走し続けます。皆さんの情熱が日本発のイノベーションとして世界へ羽ばたく日を、心から楽しみにしています。共に、未来の医療と社会を創り上げていきましょう。







 
 
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