「街」を起点に、未来の予防医療を社会実装する──森ビルが健康医療ベンチャー大賞と共に描くウェルネスの形

森ビル株式会社 役職:麻布台ヒルズ運営推進室 ウェルネス推進部 課長 兼 タウンマネジメント事業部 マーケティング・コミュニケーション部ヒルズネットワーク推進グループ 課長氏名:中嶋 俊幸
実行委員:藤井(慶應義塾大学医学部4年)・中野(慶應義塾大学医学部4年)
インタビュー日:2026年6月22日
「都市を創り、都市を育む」という理念のもと、数々の大規模な都市開発を手掛けてきた森ビル株式会社。単に建物を建てるだけでなく、そこで営まれる人々の生活や体験を豊かにし、都市の価値を長期的に高め続けることを使命としています。近年、同社が街づくりにおいて特に注力しているテーマの一つが「ウェルネス」です。麻布台ヒルズをはじめとする都市空間を通じて、人々の健康や予防医療にいかに貢献していくのか。今回は、同社ウェルネス推進部のご担当者様に、街づくりを通じた医療・ヘルスケア領域へのアプローチ、慶應義塾大学医学部との連携の背景、そして「健康医療ベンチャー大賞」に挑戦する次世代の起業家たちへの熱い想いを伺いました。
企業・事業紹介
──まずは、森ビル様の事業内容や、都市づくりにおいて根底にある大切にされている考え方について教えてください。
当社は「都市を創り、都市を育む」という理念を掲げて事業を展開している総合ディベロッパーです。私たちが考える「都市を創る」とは、オフィスや住宅、商業施設、文化施設といった多様な都市機能をひとつのエリアに集約させ、歩いて楽しめる「コンパクトシティ」を実現することを意味しています。コンパクトな範囲内で、働く、住む、遊ぶ、憩うといった都市ならではの豊かな体験を創出することが、都市の価値であると考えています。
さらに重要なのが、「都市を育む」という視点です。立派な建物を建てたとしても、それだけで街がうまく機能するわけではありません。街全体をマネジメントし、賑わいを生み出し、情報を発信していく。そうした取り組みを通じて、街の価値を長期的に高め続けていく必要があります。当社の再開発事業は、元々その土地に権利をお持ちの方々と長年にわたり対話を重ね、共に開発を進めていく手法を基本としています。だからこそ、「創って終わり」ではなく、完成後も責任を持って運営し続け、権利者の皆様や街に参加した様々なパートナーの皆様と一緒に街を大切に育んでいくことを重視しています。
また、都市と自然の共生も私たちが大切にしているテーマです。地下空間や建物になるべく機能を集約することで、地上にはなるべくオープンスペースを確保して豊かな緑を創出する。既存の生態系を活かし、かつての自然や生き物が戻ってくるような環境づくりにも力を入れています。
こうした都市づくりへの想いの背景には、激化する「都市間競争」に対する強い危機感があります。かつて東京はグローバル企業のアジア拠点が集積する中心地でしたが、現在では他のアジア諸都市との厳しい競争にさらされています。東京の国際競争力が低下すれば、日本全体の国力低下にも直結しかねません。だからこそ、東京が世界から選ばれる都市であり続けるために、街づくりを通じて、人や情報が集まり、イノベーションが循環する仕組みづくりも積極的に支援していきたいと考えています。
医療・ヘルスケアへの取り組み
──都市づくりの中で、ウェルネス推進部では具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。慶應義塾大学医学部との連携についても詳しくお聞かせください。
ウェルネス推進部では、「ヒルズに住み、働き、過ごすこと自体が、人々のウェルネスに繋がる環境を構築すること」を目指しています。豊かな緑に触れることなど、都市環境そのものが健康に寄与する側面はもちろんありますが、さらに一歩踏み込み、街を訪れる方々が自然な形で健康増進や予防医療に参加できるような仕組みづくりに注力しています。
その具体的な取り組みの柱となっているのが、慶應義塾大学との連携です。大きく分けて2つのプロジェクトが進行しています。1つ目は、麻布台ヒルズにおける「慶應義塾大学予防医療センター」の運営支援です。同センターは元々信濃町にありましたが、麻布台ヒルズの開業に合わせて拡張移転されました。当社は、森ビルのお客様に対して予防医療センターのサービスをご案内するなど、営業面の支援を行っています。
もう1つの柱は、慶應義塾大学医学部の皆様との共同研究です。ここでは、「働く人々のウェルビーイング向上に寄与する要素は何か」といった中長期的なテーマを探索しています。街で働くビジネスパーソンを対象に長期間にわたる実証データを取得し、企業へのフィードバックや最終的な社会実装を目指す取り組みです。信濃町のキャンパス内だけでは難しい、実際の都市環境でのリアルな研究フィールドを提供できる点に、ヒルズならではの価値があると考えています。
これらの連携の背景には、慶應義塾大学と当社で、「未来の予防医療を創りたい」という思いが一致したことがあります。少子高齢化の進展による医療費負担増などの社会課題もある中で、病気になってから治療するだけでなく、病気になる前の未病段階からアプローチする「予防医療」の重要性が高まっています。しかし、病院には基本的に病気になった人しか訪れません。健康に対する意識が高い人であれば、自ら進んでフィットネスに通ったり、健康管理アプリを活用したりするでしょう。しかし、「健康に無関心な人」には、病院で待っているだけではアクセスできないという課題がありました。
そこで私たちが提供したいと考えたのが、「街」という場です。街には、毎日オフィスに通勤してくるビジネスパーソンや、買い物に訪れる方など、健康な人々、あるいは健康に関心がない人々が日常的に滞在しています。物理的な接点が圧倒的に多い街の特性を活かし、健康に関心がない人々にも無意識のうちに行動変容を促し、予防医療を広く社会に浸透させていく。それは街に訪れる方にとってはもちろん、街の価値にもなりますし、社会にとっても有益なことです。そうしたビジョンが一致し、麻布台ヒルズへの予防医療センターの拡張移転や共同研究が実現しました。

健康医療ベンチャー大賞への想い
──森ビル様が「健康医療ベンチャー大賞」を知ったきっかけや、協賛を決められた背景について教えてください。
本大会を知ったきっかけも、やはり慶應義塾大学との繋がりでした。共同研究等を通じて日頃からディスカッションを重ねる中で、医学部が主催するベンチャー大賞の存在を教えていただきました。
協賛を決めた最大の理由は、大会に込められた想いへの共感です。医学部という教育・研究機関が主体となって、これほどの規模のビジネスコンテストを主催するケースは非常に珍しいと思います。そこには、「未来の予防医療を創っていく」という明確なビジョンがあります。
森ビルとしても、ヒルズという街を通じて「未来の予防医療に貢献したい」という想いを持っており、目指しているゴールは一致していました。
また、「街の価値を高める」という観点からの期待もあります。普段、私たちの街にはなかなか足を運ぶ機会の少ない医療従事者の方や、医療を志す学生の方々が、この大会をきっかけに街に集い、交わるようになる。多様なバックグラウンドを持つ人々が交流し、新たなコミュニティが形成されることは、街の多様性を広げ、新たな価値の創出に繋がると考えています。予防医療センター、共同研究という実践の場、そしてベンチャー大賞による次世代の育成。これらを通じて、慶應義塾大学との連携を多角的に発展させていきたいという想いから、協賛を決定いたしました。
健康医療ベンチャー大賞に参加して感じたこと
──これまで協賛されてきた中で、参加チームの事業内容やイベント全体の熱量について、どのような印象をお持ちでしょうか。
まず何より圧倒されるのは、参加される皆様の「熱量の高さ」です。そして、提案されるビジネスアイデアの幅が非常に広く、似通ったプランが少ない点も素晴らしいと感じています。毎回拝見するたびに、新しい発見と驚きがあります。
一方で、ヘルスケアや予防医療の領域において「事業化」や「マネタイズ(収益化)」を実現することの難しさも改めて痛感しています。特に日本においては、公的医療保険制度が非常に充実しており、万が一病気になっても比較的少ない自己負担で質の高い医療を受けることができます。この制度自体は素晴らしいものですが、その反面、人々が「病気になる前の予防」に対して積極的にお金を支払うというインセンティブが働きにくいという構造的な課題があります。
こうした背景がある中で、昨年の大会などでは、サービスを利用するエンドユーザー(消費者)から直接お金を徴収するのではなく、エンドユーザーが健康になることが間接的にメリットとなる企業等をお金の負担者にする「ToB(法人向け)」のビジネスモデルを構築し、マネタイズの壁を乗り越えようとするチームが多く見受けられました。
そうしたマネタイズの工夫ももちろん大事な観点ですが、やはり一番はエンドユーザーが使ってくれそうなイメージを持てるかどうかが重要です。予防医療というとスケールの大きな話に聞こえるかもしれませんが、健康な人でも睡眠や食生活など日常的な悩みはあるので、そういった一つ一つのニーズをくみ取ってサービス化にチャレンジしていくことが大事なのだと思います。
挑戦者へのメッセージ
──最後に、これから健康医療ベンチャー大賞に挑戦しようとしている学生や研究者、起業家の方々へ向けたメッセージをお願いします。
医学部という教育機関が主催し、未来の医療を見据えてこれほど熱量高く取り組まれている健康医療ベンチャー大賞は、本当に有意義で素晴らしい取り組みです。この場を通じて、次々と新しいビジネスが生まれ、社会課題の解決に向かっていくことを心から期待しています。
大会も回を重ね、コンテストで受賞された方々が実際に社会に出て目覚ましい活躍をされているお話を数多く耳にするようになりました。今後、そうした「卒業生」の皆様がさらに増え、ベンチャー大賞出身者というアルムナイ(同窓生)ネットワークが形成されていくはずです。そのコミュニティが可視化され、先輩から後輩へと知見が受け継がれるようなエコシステムへと育っていくことを非常に楽しみにしています。
私たち森ビルは都市開発という立場から、皆様は医療やテクノロジーという立場からアプローチをしていますが、「未来の予防医療を実現し、人々のウェルネスに貢献する」という社会的な目的は同じです。単なる協賛企業として外から応援するだけで終わるのではなく、同じ志を持つ「同志」として、共に日本の医療の未来を創り上げていきたいと強く願っています。皆様の情熱あふれる挑戦を、心からお待ちしております。

東京・港区を拠点とする総合ディベロッパーとして、「都市を創り、都市を育む」という思想のもと、六本木ヒルズ、麻布台ヒルズなど多様な機能を融合させた大規模再開発を展開し、国際都市・東京の磁力向上に資する都市づくりを推進している。
森ビル株式会社


