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第10回学生部門優勝者インタビュー

8月4日
読了時間: 8分

2025年12月に開催された「第10回 健康医療ベンチャー大賞」(以下「ベンチャー大賞」)の学生ビジネスチャレンジ部門で優勝した鷲見 直さん。

鷲見さんは大学院で研究に取り組む傍ら、可搬型コントローラとシミュレーションアプリを組み合わせた内視鏡検査・治療トレーニングシステム「MyEndoscope」の開発・事業化を進めています。2023年夏の試作開始から約2年半で、複数の大学病院や国内外の医療関係者、支援機関との連携を進めるプロジェクトへと発展させてきました。

工学を学ぶ鷲見さんが医療分野に挑んだ背景と、ベンチャー大賞の選考・メンタリングを通じて得た学び、今後の展望を伺いました。



<プロフィール>

鷲見 直 さん (左)

MyEndoscopeプロジェクトリーダー/2024年度IPA未踏アドバンスト事業修了生/NEDO NEP開拓コース NEDO-Front-Runner(FR)/東京大学大学院工学系研究科 電気系工学専攻 修士課程。指導医が常時付き添わなくても反復練習できる可搬型内視鏡トレーニングシステム「MyEndoscope」の開発・事業化を進める。


インタビュアー:健康医療ベンチャー大賞副実行委員長 嶋本顕人(右)


会場協力:CRIK信濃町慶應義塾大学病院に併設するリサーチ&インキュベーションセンター。医療データを活用する共同研究の実施や、共同研究に参加しているスタートアップや大手企業を繋ぐコミュニティの場を提供。https://crik.keio.ac.jp/


事業への挑戦を後押ししたのは「とりあえずやってみよう!」というマインド


――まずは優勝おめでとうございます!鷲見さんは医学部ではなく工学部の出身だそうですね。どのような経緯でこのサービスを立ち上げたのでしょうか?


鷲見さん: ありがとうございます。大学の学部では電子情報工学科に所属し、現在は大学院の電気系工学専攻で、医工学デバイスの研究に取り組んでいます。

2023年に米国ハーバード大学の物理学科で二次元半導体の研究に取り組んでいた時期に、現在も医学監修に携わる内視鏡指導医の先生と出会い、「こんなに可能性がある内視鏡が普及しないという問題はどのように解決できるだろうか」と議論したことが、プロジェクトの始まりでした。

また、それと同じ頃に、身近な友人をがんで亡くしたことも大きなきっかけだったと思います。

当時本当に辛くて、色々調べてみたら「がんは早期発見と適切な治療が、その後の経過を大きく左右すること」を知りました。

これはやる価値があるものだと思い、取り組むことにしました。


――そこで実際に行動に移せる人と、「そうなんだ」で終わってしまう人がいると思うのですが、実際に行動を起こせた理由は何だったのでしょうか?


鷲見さん: 自分が師匠のように慕っている篠崎尚史先生の影響が非常に大きいと思います。先生はシステム作りも研究も両方できるスーパーマンのような方で、幼い頃からずっと憧れていました。

そんな篠崎先生から教わった「とりあえず手を動かしてやってみよう」というマインドが自分の根底にもあるんだと思います。

2023年6月に帰国してから、早速7月に実際の実際の大腸内視鏡治療を見学し、内視鏡の操作も体験しました。そこでイメージが湧いたので、8月にはプロトタイプを作り始めていましたね。といっても最初は本当に手作りで、割り箸の骨格や秋葉原で購入した部品、Nintendo SwitchのJoy-Conに内蔵されたセンサーなどを組み合わせ、最初の試作機を作りました。


事業化の確信を持てるまで約2年研究感覚で新しい価値の創造を模索


――すごいスピードですね!そこから、どのようにチームを広げ、事業を育ててきたのでしょうか?


鷲見さん: 初期の試作段階からエンジニアや内視鏡医の仲間とチームを組み、研究開発を進めてきました。

研究室の運営と同じように研究費を調達するイメージで、2024年度にIPAの未踏アドバンスト事業、2025年度にNEDO NEP開拓コース、2026年度にNEDO NEP躍進コース、関西スタートアップインキュベーションプログラム「起動4期」の採択者に選ばれました。


――最初は研究的に開始した取り組みを、本格的に事業に興そうと思ったターニングポイントは?


鷲見さん: 最初は本当に出来上がるかも分からなくて「これは練習に使えるかもしれない」という確信を持てるまでには1~2年かかりました。

事業に新規性を持たせるためにも、当時は”技術的にできない”と思われていた部分をPoCで一つずつクリアしていったのですが、その中で「若手医師の先生方になら、訓練デバイスとして提供できそう」とターゲット層やサービスの価値が明確に見えてきたのが大きかったです。

あとは、この事業に確信を持てた最後の一押しは、実は健康医療ベンチャー大賞で、矢作先生からフィードバックをいただいた時でした。(慶應義塾大学病院で消化管腫瘍の低侵襲治療を専門とする矢作直久教授。低侵襲療法開発研究ユニット長。※2026年8月現在)

これまではターゲット層の先生からのヒアリングを主にサービス設計をしていましたが、既存の内視鏡トレーニングデバイスの監修もされている矢作先生からフィードバックを頂くことができ、俯瞰的な観点からも価値あるサービスに作り込んでいけるイメージが持てました。



選考プロセスだけでも価値がある専門医から貰えたアドバイス


――事業を進められる中で、今回「健康医療ベンチャー大賞」に参加されたきっかけを教えてください。


鷲見さん:チームメンバーの伊藤先生からの推薦がきっかけでした。慶應医学部のネットワークや、専門の先生方から直接フィードバックをいただけることに大きな魅力を感じたんです。


――実際、ベンチャー事業を進められる中で、一番良かったサポートは何ですか?


鷲見さん:先ほどもお伝えした、専門医の先生から受けられるメンタリングプロセスが本当に良かったです。

※健康医療ベンチャー大賞では、プログラム参加者を対象に専門職や投資家をご紹介し、メンタリングを受けることができるプログラムを用意しています。(詳細はこちら)


特に、日本を代表する内視鏡医である矢作先生にフィードバックを頂けたのは非常に大きな経験でした。

本来なら矢作先生は雲の上の存在で、3年後くらいに完成度を高めてからでないとお会いすることすら難しいと思っていたんです。それが、メンタリングの希望を提出する際に、軽い気持ちで矢作先生のお名前を挙げたところ、実際に面談が実現しました。


矢作先生からは、熟練医が無意識に行っている「ひねりながら押す」といった繊細な手技の言語化や、若手医師が本当に困っているポイントについて深く教えて頂き、本当に学びの連続でした。


また、VC(ベンチャーキャピタル)のメンターの方々が、利害関係のないニュートラルな立場で、かつ心理的安全性が保たれた環境でアドバイスをくださったことも印象的です。

自分たちだけでは気づけなかった多角的な視点で、ビジネスモデルを磨き上げることができ、「この方向性で間違っていない」と確信を持てたことが一番の収穫です。


――実はベンチャー大賞の学生部門は「育てるコンテスト」をコンセプトに、選考の中でも事業を育ててほしいという思いを持ってプログラムを作っています。今回のメンタリングプロセスが鷲見さんの事業への確信にも繋がったというお話を伺うことができ、とても嬉しく思います!



更に広い市場を狙って日本の高い内視鏡技術を世界へ


――ビジコンで優勝されてから、何か反響はありましたか?


鷲見さん: 実証実験の交渉がスムーズになりました!「慶應のベンチャー大賞で優勝した」という実績は、実証に向けた関係者との調整を進める上で後押しになっています。医療・ビジネス・行政など多様な有識者による審査を経た、事業性・社会性に対する外部評価が、自治体やパートナー企業との対話で信頼を築く材料になっていると感じます。


――今後の事業展開はどのように考えていますか?


鷲見さん: 現在は、基礎操作や特定のトレーニング課題を反復できるプロトタイプの安定性と再現性を高めています。今後は大学病院での研究を通じ、トレーニングによる技能向上効果を学術的に検証する予定です。

また、義務感ではなく、思わず繰り返したくなる学習体験を目指し、ゲーミフィケーションや行動科学の知見も取り入れています。目指しているのは、内視鏡と組織の相互作用を再現する高精度な仮想訓練環境です。解剖構造、組織の弾性、摩擦、接触、出血などを仮想空間に再現し、多様な症例や偶発症に応じた手技を安全に反復練習できるようにしたいと考えています。

2026年3月から、米国・アフリカの医療関係者とニーズ検証や実証に向けた取り組みを進めています。


――海外展開も既に視野に入れているんですね!


鷲見さん:日本の内視鏡治療技術は世界一と言われており、むしろ、海外にこそこの技術を求めている「訓練機会を強く必要としている医師」な人たちが大勢いると思っています。


日本は、ESDをはじめとする高度内視鏡治療を世界に先駆けて発展させてきました。一方、海外には、指導医や高額な訓練機器へのアクセスが限られ、十分な訓練機会を得にくい医師が多くいます。MyEndoscopeを通じて、医師が場所や時間に縛られず、熟練医の知見を反映した訓練を受けられる環境を整え、より多くの患者に低侵襲な医療を届けたいと考えています。


――最後に、学生で起業を目指す方へ一言お願いします!


鷲見さん: 慶應のコンテストは、非常に手厚く、かつ良い意味で厳しく指導してくれます。

その環境にガツガツ食らいついていく姿勢があれば、大きく成長できるはずです。

是非いま頭の中にあるアイデアをアイデアだけで終わらせず、まずは手を動かして、一歩踏み出してみてください!

 
 
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