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「患者さんの人生を変える」ために、私たちが薬以外の領域を仲間と創る理由──アストラゼネカが健康医療ベンチャー大賞を応援する背景

23 時間前
読了時間: 9分

アストラゼネカ株式会社 執行役員 メディカル本部長 田中倫夫様

実行委員:藤井(慶應義塾大学医学部4年)・古市

インタビュー日:2026年6月30日


抗がん剤や循環器疾患など、患者さんの命と健康を支える医療用医薬品を世界中に届けるグローバル製薬企業、アストラゼネカ。「サイエンスの限界に挑み、患者さんの人生を変える医薬品を届ける」という揺るぎない信念のもと、新薬の開発・提供にとどまらず、ヘルスケア全体の課題解決に向けたイノベーションを推進しています。 今回は、メディカル本部にて臨床現場と研究の橋渡しを担う田中様にインタビューを実施しました。製薬企業であるアストラゼネカが、なぜ自社の事業領域を超えて「健康医療ベンチャー大賞」に協賛し、次世代の起業家や学生たちを支援するのか。その背景にある医療への深い想いや、イノベーションに向けた価値観、そして未来の医療を変える挑戦者たちへの熱い期待についてお話を伺いました。



企業・事業紹介


──まずは、アストラゼネカ様の事業内容と、田中様が所属されているメディカル本部の役割について教えてください。


当社は、医療用医薬品の研究開発から製造、販売までを一貫して行うグローバルな製薬企業です。皆さんが日常的に利用されるドラッグストアに並ぶような市販薬は扱っておらず、医師の処方箋が必要となるお薬に特化しています。具体的には、抗がん剤をはじめ、循環器疾患、呼吸器疾患、そして感染症といった、高度な専門性が求められる領域において、患者さんにお薬をお届けしています。


その中で私が所属するメディカル本部は、新しいお薬が承認された後、実際の臨床現場でいかに適切に使っていただくかをサポートする役割を担っています。新薬の臨床試験というものは、厳密な条件のもとで限られた患者さんを対象に行われます。しかし、実際の医療現場には、さまざまな背景や合併症を持つ多様な患者さんがいらっしゃいます。そのため、臨床試験で得られたデータを実際の臨床現場で活用できる形に「翻訳」し、エビデンスを構築して情報提供を行っていくことが、私たちの最も重要な使命です。


当社のビジネスの根幹は、あくまで「お薬を作って届けること」です。近年注目を集めている診断サポートツールなどの開発そのものを、直接のビジネスとして手がけているわけではありません。製薬企業として、そこには「餅は餅屋」という明確な考え方があります。私たちの最大の強みは画期的な医薬品の創出にありますから、すべての領域を自社で抱え込むのではなく、各分野の専門性を持つパートナー企業と連携し、お互いの強みを持ち寄る。それが結果として、患者さんに最適な価値を提供することにつながると考えています。



医療・ヘルスケアへの取り組み


──お薬を提供するだけでなく、パートナーとの連携を重視されているのですね。健康医療分野において、御社が最終的に目指しているのはどのような社会なのでしょうか。


私たちが常に掲げ、すべての事業の真ん中に置いているのは「患者さんの人生を変える」という目標です。日々の業務においても、新しいプロジェクトを立ち上げる際にも、「それは本当に患者さんにとって良いことなのか?」「患者さんのベネフィットにつながるのか?」という一点が、最も重要な判断基準になります。


お薬を開発して患者さんに届けることは私たちの本業ですが、お薬をお渡ししただけで患者さんの人生が完全に良くなるわけではありません。たとえば、そもそも正しい診断がなされなければ、適切なお薬を使う機会すら得られません。また、お薬を飲んだ後も、ご自身の体調の変化をどのように記録し、主治医にどう伝えればよいのか迷われる患者さんも多くいらっしゃいます。さらに、治療の効果が十分に得られなかった場合や、お薬が効かなくなった後にどのようなサポートができるのか。


つまり、健康な方が病気になり、治療を経て、その後の生活を送るまでのすべてのプロセスを包括的に支える必要があるのです。私たちはこれを「トランスフォーミング・ケア」と呼び、医療のあり方そのものをより良く変革していくプロジェクトとして推進しています。


お薬による「トリートメント(治療)」から、患者さんの人生全体を支える「メディカルケア」へと視野を広げたとき、診断から治療、予後の管理に至るまで、まだまだ改善すべき課題が山積していることに気づきます。自社でお薬を提供するだけでなく、患者さんを取り巻く医療全体のギャップを埋めるために、診断技術やデジタルヘルスを担うテクノロジー企業、あるいは全く異なる専門性を持つ他社様とも積極的に対話し、協力しながら課題解決の道を探っています。すべては「患者さんのため」であり、その想いが私たちのあらゆる取り組みの原動力となっています。




健康医療ベンチャー大賞への想い


──ヘルスケアの変革を目指す中で、今回「健康医療ベンチャー大賞」に協賛を決めていただいた背景についてお聞かせください。


初めてこの大会のお話を伺ったとき、純粋に「素晴らしい取り組みをされているな」と感じました。実は当社でも、「i2.JP(アイツードットジェイピー)」というオープンイノベーションのネットワークを立ち上げ、運営しています。これは、スタートアップやベンチャー企業、医療関係者、さらには全く異業種の方々が集まり、ヘルスケアの課題解決に向けて自由に議論し、協業の種を見つけるためのサロンのような場です。


この活動を通じて私たちが実感しているのは、多様な知見が交わる場からこそ、真のイノベーションが生まれるということです。健康医療ベンチャー大賞もまさに同じ方向を向いており、新しいアイデアを持った方々が挑戦し、集う場を提供している点に深く共感しました。

もちろん、協賛したからといって、すぐに当社の直接的なビジネスに繋がるわけではありません。明日、新しいビジネスが始まるような見返りを期待しているわけではないのです。しかし、私たちが目指しているのは、単に自社の薬を届けることではなく、「健康寿命を延ばす」という大きな社会課題の解決です。


超高齢社会において、生活習慣病などの非感染性疾患や、それに伴うさまざまな医療課題はますます複雑化しています。健康寿命と実際の寿命とのギャップを小さくするという壮大なテーマに向き合うには、私たち製薬企業一社の力だけでは到底及びません。だからこそ、特定のニッチな課題に気づき、独自の視点で解決策を見出そうとするベンチャー企業や学生の皆さんのような存在が不可欠なのです。そのような方々が集まり、議論を深める場を支援することは、巡り巡ってヘルスケア業界全体を良くし、結果的に患者さんのためになると信じています。



健康医療ベンチャー大賞に参加して感じたこと


──昨年度は実際の最終審査会にもお越しいただきました。参加者や発表チームの様子をご覧になって、どのような印象を持たれましたか?


皆さんの熱量とレベルの高さに非常に感銘を受けました。特に学生チームの発表は、ビジネスとしてはまだ荒削りな部分もありましたが、そこに至るまでに「どれほど膨大な準備と努力を重ねてきたのだろう」という情熱がひしひしと伝わってきました。現場の課題を肌で感じ、なんとか解決したいという強い想いがあるからこそ、あれだけのプレゼンテーションができたのだと思います。


一方で、社会人部門やビジネスに直結するチームの皆さんも、すでに何度も壁にぶつかり、失敗を経験しながらも前に進んできた逞しさがありました。非常に厳しい指摘や本質を突く質問に対しても堂々と答える姿を見て、すでに選び抜かれた方々がここに立っているのだと実感しました。


同時に、この大会の「その後」の重要性も強く感じました。「選ばれました、アワードを与えました」で終わらせてしまうのは非常にもったいないことです。素晴らしいアイデアを持った彼らが、実際に事業を社会実装していくプロセスを、どのようにフォローアップしていくかが今後の大きな鍵になると思います。


特に学生の皆さんは、熱意もアイデアもありますが、ビジネスの立ち上げ方や組織づくりといった実践的なノウハウはこれから身につけていく段階です。メンタリングやコーチングを通じて、彼らが事業を軌道に乗せるまでの道のりを、私たちのような企業も含めて周囲が伴走し、育てていく仕組みができれば、さらに価値のある大会になるのではないかと期待しています。



挑戦者へのメッセージ


──最後に、これから医療・ヘルスケア分野で新しいビジネスや研究に挑戦しようとしている学生や起業家の皆様へ、メッセージをお願いします。


世の中を変えるような素晴らしいビジネスも、最初は日々の生活や臨床現場での「ちょっとした違和感」や「何気ない気づき」から生まれていることが多いと感じます。皆さんが「これは課題だ」「もっと良くできるはずだ」と直感した小さな種を、ぜひ大切に育てていってください。


その種を育てる過程で意識していただきたいのは、決して自分一人、あるいは同じ領域の仲間内だけで抱え込まないことです。医学部なら医学部、工学部なら工学部の人間だけで議論するのではなく、全く異なる背景や専門知識を持つ人たちと積極的に意見を交わしてください。多様な視点を取り入れることで、アイデアの解像度は飛躍的に上がり、事業としての実現可能性も高まっていきます。


そして、事業化を進める上で絶対に忘れてはならないのが、「それは本当に患者さんのためになっているのか?」という問いです。技術的にどれほど優れていても、理屈の上でどれほど面白くても、胸を張って「患者さんのためになる」と言えなければ、医療分野で事業を行う意味はありません。この芯となる部分を、常に自分たちに問いかけ続けてください。

さらに、ビジネスとして成立させるためには「出口戦略」も不可欠です。「みんなのために良いもの」であることは大前提ですが、「誰がその対価を払うのか」「どのようにして必要な人の元へ届けるのか」という道筋を描けなければ、継続的な価値提供はできません。入り口の情熱とともに出口の現実をしっかり見据えることが、ヘルスケアビジネスを成功させる秘訣だと思います。


ヘルスケアの未来は、皆さんのような若い力と柔軟な発想にかかっています。ベンチャーなのですから、最初から小さくまとまる必要はありません。たとえニッチな領域からのスタートであっても、最終的に目指すところは大きくあってほしいと願っています。時には私たちが思いもよらないような「とんでもない絵」を描き、大きな目標に向かって突き進んでください。私たちは、その果敢な挑戦を心から歓迎し、皆さんと共に患者さんの人生を変える未来を創っていけることを、心から楽しみにしています。







アストラゼネカは、サイエンス志向のグローバルなバイオ医薬品企業です。英国ケンブリッジを本拠地として、当社の革新的な医療用医薬品は125カ国以上で販売されており、世界中で多くの患者さんに使用されています。日本においては、主にオンコロジー、循環器・腎・代謝、呼吸器・免疫疾患およびワクチン・免疫療法を重点領域として患者さんの健康と医療の発展への更なる貢献を果たすべく活動しています。

アストラゼネカ株式会社

https://www.astrazeneca.co.jp/

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